対談=土方久明 × 栗原祥光(Hisaaki Hijikata & Yoshimitsu Kurihara)/写真=Akio Shimazu
使いたくなるスピーカー
この音を聴いたプロショップはデモカーを仕立てたくなるのでは
土方久明(以下、土方):久しぶりにスピーカー、あのユニット使ってみたいと思いました。普段あまりこういうこと思わないけど、これは……。
栗原祥光(以下、栗原):確かに、このユニットは欲しいです。
ASW:パイオニアの最新ハイエンドスピーカーTS-Z1GRを聴いていただいた感想が、『欲しい』とは、評論家のお2人が揃ってそうおっしゃるとは。何をしてそれほど言わしめるのでしょう?
栗原:音の消え際が綺麗なんです。すごく綺麗に消えていく。振動板の固有のキャラクターがない。カラレーションといったものがあまり感じられない。60か月払いなどの支払い計画を考えようかというほど欲しくなりました。
ASW:一括でも承りますが……。
栗原:さすがにお値段が、やすやすと手を出せるものではなく……。
土方:確かに欲しくなりますね。おそらくこの音を聴いたプロショップの多くはデモカーを仕立てたくなるんじゃないでしょうか。
栗原:そういうお店は少なくなさそうですね。

パイオニアのハイエンドスピーカーとしてリリースされるTS-Z1GR。トゥイーターとミッドレンジを独自の同軸構造としたCSTドライバーと170mmウーファー、パッシブクロスオーバーネットワークで構成する3ウェイスピーカーだ。価格は¥700,000(セット/税別)。CSTドライバーは、TS-HX1GR(¥450,000ペア/税別)としても販売される。
オーディオの大事なところを見直すほどの体験
音像の定位は秀逸
土方:第一印象として、とにかく音に驚かされました。「驚く」などという言葉はあまり使うべきじゃないんですけれど、率直に驚かされてしまった。
栗原:“オーディオの本当に大事なところとはなんだ”というのを今一度見直すことになった体験でした。定位など秀逸です。
土方:現代のカーオーディオで大切なのは、当然、分解能や音色とか、周波数レンジやダイナミックレンジというのがあるのだけれど、そういうものは昔から言われ続けているもので、現在のカーオーディオ、特にコンテストに出るような気合が入ったクルマで大切なのは、僕は、音像と音場の高次元の両立だと思っているんです。
栗原:そうですね。
土方:僕はここにポイントがあると思っていて……。
栗原:音像がきちんと出ていないと、聴いていて気持ちが良くないし、音楽表現に影響しますね。
土方:TS-Z1GRを聴いて、僕が一番驚いたのはその部分で、誤解を恐れずに言えば今までほとんど聴いたことがないくらい良かった。「これまで聴いたことがない」も言ってはいけないワードですけれど、でもそれが口をついて出てしまうのは、横方向の定位、例えばセンターにヴォーカルが定位してそのすぐ隣からスピーカーまで、ステージをひずみなく出したいんですけれど、そこがまずしっかり出ていた。このレベルでステージと音像が出ていた車両は今年コンテストで聴いた中でも本当に数少ないです。
それと同時にですね、これはとてもショッキングだったんですが、奥行きの表現力が、あえて言わせてください、ほぼ聴いたことがないほど出ているんです。
栗原:音像の前後関係ですよね。ボンネットのところから音楽は聴こえてくるし、手前は手前でダッシュボードの上からも聴こえてきているんです。
土方:よく言われていた「フロントガラスを大きく超えてステージの奥行きが出る」というのがありますが、僕自身はそこまでのクルマを今まで聴いたことがないんです。でもこのTS-Z1GRで聴くカーオーディオは、これまでのマルチウェイ……トゥイーターとミッドレンジが別々のところに装着されて鳴るのが当たり前だったものを、プロのカーオーディオインストーラーが究極の調整を施して音場を作っている、これがカーオーディオの凄いところなのだけれど、それをトゥイーターとミッドレンジを同軸構成にするCSTユニットにすることで、プロフェッショナルが作る立体的なステージングを出していたことは最も特筆すべきことと感じています。CSTの仕組みとしてのメリットを大いに感じました。
製品の説明をうかがって想像していた音に対して、実際に聴いた音の良さは200パーセントくらいに感じてます。
コンセプト通りの音が出ている
類稀なスピーカー
栗原:開発コンセプトとして次のようなものが掲げられていますが。
この2番目ですね。音の定位の安定性です。
TS-Z1GRのコンセプト
「空間と時間の一致が誘う(いざなう)異次元の音楽体験」
コンセプトを実現する7つの要素
1.明瞭な音像表現力
2.音の定位の安定性
3.立体的な音場再生
4.低音から高音まで音域バランスの良さ
5.小音量から大音量まで違和感のないスムースな再生
6.レスポンスの良いスピード感のある音
7.弦楽器、管楽器、人の声など音色の如何を問わず、歪曲されずに再生
土方:そう、そこです。
栗原:とにかくブレないです。音像が。
土方:徹底してます。
栗原:このブレない音像があるがゆえに、次に謳われている立体的な音場再生につながってくるのかなと感じました。
土方:安定していましたね。それと、もうひとつ、このユニットのいいところは、聴感上、軸上の位相感と軸から外れた時の位相感がとてもシームレスなので、安定していると感じられる。ここまで音像が出るカーオーディオのシステムって、顔を2〜3センチずらしたら音像も音場もまったく別の印象になるものが多いんです。
栗原:そうですね。
土方:僕と栗原さんは結構身長差があるでしょう。頭の大きさも結構違いますよね。
栗原:私の方がだいぶ大きいですからね。
土方:これだけの体格差があるにもかかわらず、今回聴かせていただいたTS-Z1GRの音の印象が2人ともひじょうに近いんですね。これは、緻密な調整を施したカーオーディオを聴いた印象としてはとてもまれなケースだと思うんです。そこについてもこのユニットの特性の良さを如実に表していると感じました。
求めているコンセプトが実際の出音にリンクしているんですよ、このスピーカー。

デモカーで試聴する土方氏。CSTドライバーはピラーに埋め込まれる形でインストールされている。
いい音で聴けるスイートスポットが広い
運転しながら聴いても気持ちいいはず
栗原:そうですね。たとえば、今日、様々な音量で聴かせていただいたんですけど、編成も様々な楽曲で。だいたいマルチウェイで組んだもの、3ウェイなどですね、こういうシステムの場合、音量を下げていったときに高音が聴こえづらくなったりしてスイートスポットが狭くなりがちなんです。
音場もそうだし音量もそうだし、音像の定位にしてもすべてにおいてスイートスポットが狭くなる、その中でどんどん突き詰めていこうとすると、ベストで聴けるエリアはますます狭くなる、それゆえに、運転しているとどうしても頭は動きますから、耳がスイートスポットから外れたらやはり気持ちよくないわけです。
本来カーオーディオは、クルマを運転しながら聴いているわけで、運転していて音楽が気持ちよく聴けるのが一番だし、運転しながら音楽が聴きたいという欲求を掻き立てるものだと思うんです。こういった前提をさらにさらに突き詰めていったものがいまのカーオーディオのハイエンドだと、そういう世界観があるべきなんですよね。
土方:なるほど。
栗原:けれども、われわれは多くの場合、クルマを停めた状態で聴いて評価することを良しとして審査などしているわけです。その一方で、このクルマを運転したら果たして楽しく聴けるのだろうかという疑問も出てくる。運転していたら、当然のようにいいポイントから耳の位置が外れることもあるから。でもこのCSTのユニットは音量を下げても上げても、大音量で気持ち良くなっても小音量で静かに聴いていても、音像はブレない、音場も奇麗に出ている、バランスすべてよし、これは凄いことですよね。

従来からあるマルチウェイのユニット構成とCSTドライバーの指向特性の違いをわかりやすく解説した図。ユニットの正面と、正面から角度をつけた位置で音圧を測定した場合、周波数特性(上のグラフ)を比べるとCSTドライバーは周波数変化による音圧の乱れが少なくなる。また下の図にみられる赤いラインは、同じ音圧で聴ける距離を示したもので、CSTドライバーでは綺麗な円弧になっていることがわかる。これはリスニング環境が複雑な車室内において、正しい音楽再生の可能性を広げるとしている。

東北パイオニアにある無響室のひとつ、スピーカーがマウントされているバッフルの向こう側には、土方、栗原両氏がいるこちら側と同じ規模の空間が広がっており、無限バッフルマウント時の特性が測定できる設備だ。

無限バッフルには、2つのユニットが縦配置、横配置など無段階に角度調整して固定できるサブバッフルが組み込まれており、従来の2ウェイスピーカーとTS-Z1GRの比較を体験することができた。
ウェルバランスなサウンドで質感表現が優秀
土方:たしかに、このスピーカーはバランスもいいですね。
栗原:そうなんです。とにかくいいです。
土方:バランスがいいところで言うと、コンセプトの4番にある“低音から高音まで音域バランスの良さ”というのを感じますし、各帯域の音色的なつながりの良さもありました。そのため癖っぽさがない。それがコンセプトの7番にある楽器や人の声を問わず再生する。つまり質感がとても良い。
ここであえて言っておきます。褒めすぎるとまずいので、すこし気になるところも無理やり言いますね。
栗原:大事なことですが、言い方が(笑)。
アキュレートサウンドで高評価できるものの
ハイエンドにありがちな色付けされた音と比較すると……
土方:ハイエンドのカーオーディオでは、あえて音色を作ってそれをスパイスとして効かせるというケースもあります。そういう音を評価するってなった時に本機をユーザーがどう評価するのかは興味深いところです。あえてリボントゥイーターを使って音に艶を出したりというのを聴いたことがあります。本来はスピーカーユニットにかかわらずDSPのチューニングでもできてしまうことだったりするのですが、TS-Z1GRのアキュレートなサウンドがどのように捉えられるか。たとえば200万円のスピーカーなどで音色に特徴があって、普段であれば、僕たちは多分、正確さを判断するモニター的な聴き方であれば、さほど評価しないところを、その特徴を加点要素として評価する人もいるので、その部分がどのように市場で受け入れられるのかは気になるところです。いわゆる芸術点といったところですね。
栗原:たしかに、A社の音、B社の音に惚れ込んで、ユニットに惚れ込んで買うというのはその通りだと思います。
土方:たとえば海外製のスピーカーなどで独特な艶っぽさを持ったモデルがあるじゃないですか。
栗原:あえてそういう音作りしているメーカーというのもありますね。あと、自分は自宅でJBLを使ってますけれど、JBLのコンプレッションドライバーの音が好きだから使っているわけで、正しい正しくないという話じゃないんです。
土方:正しい正しくないで言ったら今日聴いたGRAND RESOLUTIONが正しい。
良質な素材が提供された
これをいかに調理するか
栗原:そうなんです。明らかに正しい。アキュレートでトランスペアレンシーなスピーカーユニットをパイオニアで用意していただいたということです。
あと、このTS-Z1GRは素材がいいんです。松坂牛のA5ランクのようなクォリティのものを持ってきてしまったんです、われわれの目の前に。ではそれを今度はプロインストーラーの方たちやオーナーさんがどのように調理していけるか、アンプで調理していくのかDSPの調整で仕上げていくのか、そのあたりは人それぞれだと思うんですが、そういったところの楽しみというのをパイオニアは与えてくれましたね。
土方:このスピーカーは調理しやすいでしょうね。音のコントロールはやりやすそうな印象です。
栗原:しやすいがゆえに、じつは難しい課題も突き付けられているかもしれないです。
土方:このスピーカーを装着したクルマを審査する……確実にコンテストに出てくると思うので、審査をするわれわれも同じですね。
栗原:その通りです。
土方:たとえば、3ウェイでユニットの価格が300万円のシステムとぶつかると思います。僕らは本機が明らかにアキュレートだと評価するけれど、もっと高額なスピーカーで高域に個性を持った製品などが好きな人もいるので、そういう人がどういう判断をされるかという話だと思います。
ただ、本機はこのままでよくて、やはりパイオニアはアーティストやレコーディングエンジニアの想いをありのままに伝えるということですし、その正しい解釈で再生するわけだから。

TS-Z1GR開発に携わったキーパーソン。
左から長谷 徹氏(スピーカー技術統括部 第二商品技術部)。安西 貴史氏(スピーカー技術統括部 第二商品技術部 市販設計課)、松下 寛氏(事業企画部 市販企画課)。互いにTS-Z1GRをクルマで最高の音楽体験ができるスピーカーとすべく尽力した。
再生楽曲の得意不得意がない
正しい解釈で再生する
土方:あともう1ついいのはね、帯域ごとに変な音色の癖がないので楽曲の得意不得意というものが少ないと思いました。“この楽曲だといいけど、こちらの楽曲だとちょっとキツイな”というのがなかったです。なぜかというと、スタジオで聴かせていただいたときに、結構いろいろな曲をかけましたけれど、藤井風からクラシックのハンス・ジマーなど聴きましたが、得意不得意がないというのは、スピーカーの正しい解釈、コンセプトの7番になりますね。あともう1つ、過渡応答がいいですね。
栗原:はい、そうですね。たぶん特性の良さが音に出ている。音楽のために様々な技術があるんだよねというのが出ていると思うんです。単純に『新しい素材と新素材の振動板を作りました聴いてください』では、能書き一流だけれど音三流なわけで、そういう製品はこれまでさんざん聴いてきています。そういったものと比べて本機は明らかに違う。本機は『自分たちが思っている音楽表現はこうなんです』というところに技術が付いてきている。それゆえに音楽がすごく綺麗に……ヴァイオリンの弦が音を発してから消えていくところまでが実に綺麗にシームレスに聴こえてくる。パルシヴな音の時は素早く出てきてパッと止まる、それゆえに気持ちよさが連続していくんです。そういう良さがこのスピーカーにはあります。
それと、音色が統一されています、音色とスピード、それは単純に振動板素材を揃えたら音色が統一できるかというとそういうものではない。そんなたやすいものではないじゃないですかオーディオって。だけど、それを実現している。音色が揃っているところからくる気持ちよさ、スピードが合うから気持ちがいい。そういった音楽を聴くことの気持ちよさがあって、冒頭の「このスピーカー欲しい」になるわけです。
土方:とても性能が高いですよね。
高性能なのにこれ見よがしな聴かせ方にならない
いい塩梅に仕上げられた音
栗原:高いです。あと、情報量が多いのですが、それをひけらかさないですね。これもあるあるですが、“情報量多いでしょう? 音数たくさん鳴っているでしょう”という音を楽しむオーディオ趣味というのもありますね。そういう演出を出そうと思ったら出せるのでしょうけれど、本機では上手いバランスでキープしているかなと感じました。聴き手が聴きに行こうとしたら感じ取れるし、そこまでではないリラックスして運転したいよという時には押し付けがましく鳴らしてくることもない。そういった塩梅がいい音に仕上げられています。その良さが本機にはあります。
土方:変に分析的に聴かせないけど分解能の高さはちゃんと発揮されていて、そこはいいですね。
栗原:うるさくないんですよ。
土方:ですね、うるさくない。
栗原:この製品の肝は蒸着ベリリウムダイヤフラムだと思うんですけれど、シームレスな鳴り方、素早いレスポンス、音の消え際の美しさというのは蒸着ベリリウムの美点が反映されているんだろうと感じています。その辺りはTADのReference ONEなどにも共通するものですよね。
感動したのが、パイオニア、TADの音がカーオーディオのスピーカーで聴けたことです。それはとにかくすごいことだと思います。開発されている方々はそれほど意識されていないかもしれないけれど、私は聴いた瞬間に『TADはこういう音するよね、ホームの製品で聴いた憶えがあるよ。それが車載用のユニットで出ちゃうのか!』と驚いたし感動しました。やっぱり、クルマ用のユニットはクルマ用のユニットの音であって、ホームはホームの音ですよと別のものと、特に純正のカーオーディオを多く聴いていると思うわけです。
土方:栗原さんは純正のカーオーディオの音をたくさん聴いていますよね。市販車全部聴いているでしょう?
栗原:さすがに全部は聴けないですけど、そこそこは(笑)。オーディオブランドのバッジが付いているものを聴いても『音色は似てはいるけれど、何か違っている』ですとか『これは外注に出して作っているんだろうな』と思わせるものというのが多いです。

CSTドライバーの構成パーツ。手前の左が蒸着ベリリウムダイヤフラムですぐ右のハウジングとともに、奥に並ぶミッドレンジのパーツの中央に組み込まれる。ミッドレンジの振動板(奥左)は開織カーボンクロスを採用し、薄く高剛性なコーンに仕上げられている。奥右の磁気回路にはカッパーショートリングも確認できる。

CSTドライバーの裏側。ケーブルは直出しとなっている。側面にくぼみのようになっている部分は、ミッドレンジハウジングを半密閉構造とするための仕掛けだ。

半密閉構造とする部分を強調して見せたイラスト。この構造と最適な吸音材を使用することで、ミッドレンジの振幅特性を適度に制御して、振幅に起因するひずみの低減化と、200Hz以下の最低共振周波数を実現したという。

トゥイーターダイヤフラムとミッドレンジコーンは、形状としてひとつながりのようにするために、マッチングホーンを採用している。これにより、ミッドレンジのコーンをトゥイーターのウェイブガイドの一部として働かせ、2つのユニットの指向性をマッチさせてクロスオーバー付近の特性の乱れが生じないという。
ハイエンドホームオーディオを多く聴いているから感じた
このデモカーの音をホームで再現するのは容易ではない
土方:普段からハイファイオーディオを2チャンネルのホーム環境で聴いている身からすると、素直にその楽曲の世界に入っていける音ですよね。そもそも僕は初めてカーオーディオコンテストに参加した時から、カーオーディオだから音が悪いなどと思ったことは一度もないですが、『言ってもカーオーディオでしょう』と思われている方は少なからずいると思うんですよ。でもそれは完全に間違っていて、今のカーオーディオシーンって、下手なホームオーディオよりいい音を出しているクルマは多く存在していて、その中で特にハイファイ……昔は外向けとか低音を競うとかありましたけど、いわゆるハイファイ再生がハイエンドカーオーディオの主流になっていますから、そこでやはりポイントになるのがホームのスピーカーの音なんです。
僕も栗原さんもホームの優れた製品の音を多く聴いているので、そういう視点から聴いて、素直に音楽を楽しめるのは間違いがないです。今日聴いた音などは、ホームオーディオやっている人の、特にエキスパートの人たちにはすごく聴いて欲しいと思いました。
栗原:聴いていて焦りました。この音を家で出そうというのは結構大変だぞと……。
土方:たしかにそれは結構難しいかもですね。
栗原:クルマの場合は座っている位置が固定されるので、そこに合わせて音を追い込んでいけるんですよ。リスニングのベストポジションが決まっているところの良さがあると思っているんですね。それにDSPが全盛ですから自分の好きな音が作れる。ホームオーディオの場合だと、僕なんか特にそうですけどアナログレコードも聴いていたりすると、アナログをデジタルに変換してDSPでいじくってアナログに戻すなんて、ご法度と言うか許されないことであると……。
土方:僕はバンバンやってるけど(大笑)。
栗原:ダメなんですよ、自分の中では(笑)。
土方:デジタルフォノイコなんかも使ってるし(笑)。でも、この部分は2人の相容れないところかもしれないですね。
栗原:そうかもしれないですね。自分はアナログで入れたらそのままアナログで出したい派なんです
土方:その気持ちはとてもよくわかりますし、それぞれの主義であって認めます。僕もそういう時代がありましたし。話をカーオーディオに戻しましょう(笑)。
カーオーディオはスピーカーとの距離が近く、音をダイレクトに耳に届けられるんだけど、ネガティブなところもあって、トゥイーターとミッドレンジとドアのウーファーがそれぞれ違う位置に着いちゃうから、それをカーオーディオってDSPを使ったり、スピーカーの微妙な位置や角度を試行錯誤して左右チャンネル各帯域で揃えてきた歴史があると思うんです。そのうえで今のカーオーディオは素晴らしい音を出していると思うんだけど、でもトゥイーターとミッドレンジが離れていると物理的に厳しいですよね。
栗原:そうですね。
CSTドライバーのいいところが
再生音すべてに反映されている
土方:この状況というのは普通の人は、なかなか合わせられないでしょう。プロショップでも、高音域、中音域、低音域ごとに、音圧、質感、位相のそれぞれを、きっちり合わせ込めるインストーラーは数えるほどだと思います。
CSTが生み出す音場、奥行き方向の正確なレイヤー感が、ほぼ聴いたことがないぐらい立体的に出ている。このアドバンテージは本機だからこそでしょう。CSTの音としては本機の前に発売されているTS-Z900PRS/HXT900PRSを搭載したクルマを、ジャッジで参加したコンテストで聴いているんです。それはうまく使いこないしていて、そのクルマはオーナー自身が調整しているようでしたが、とても可能性を感じさせる音だったんです。今回はその上位モデルなので、コンテストで感じた可能性って『あの時のはこういうことなんだな』と思い出されました。
栗原:ミッドレンジとトゥイーターが離れて配置されるというのは……。
土方:厳しいですよね。
栗原:厳しいです。
土方:その厳しい状況を、プロインストーラーは気の遠くなるような職人技で……。
栗原:調整してきてますよね。その苦労をCSTドライバーにすることで解消してしまう。
土方:そうです。だから、いい音を生み出すうえでとても有利なんです。クルマに、このような同軸ユニットを載せる可能性を大いに感じるんです。
栗原:同軸という話だと、他社になりますが、KEFの同軸ユニットUNI-Qを搭載したロータスを聴いているんですけれど。
土方:僕も聴いていますけれど、コンシュマー向けに音を作っていることもありますが、これほどまでの音は出ていませんね。
栗原:出ていないです。少し甘い音ですね。あのロータスはドアに、聴取位置の側面に配置されているんです。ユニットが対面する位置にないんですね。それゆえにダッシュボードの中央にセンタースピーカとしてUNI-Qを入れて鳴らさなければならない。そうしないとセンター定位が出せなかった。
土方:そもそもコンセプトも違いますし、パイオニアとしてはA-8という1937年に同軸のスピーカーユニットを発表していて、点音源の思想を製品化していますし、1952年にはPAX-12Aというモデルも出しています。12Aは平面の同軸でした。パイオニアは点音源にこだわっていて、1985年のS5というモデルでバーチカルツインという方式を生み出しました。TADでは2002年のModel Oneを生み出しました。とにかく点音源をコンセプトにした銘機が数多くあります。それらの最新形がこのCSTに結実しています。そういうメーカーだからこそのもの、やってきた歴史が違うんです。思い付きではない、連綿と受け継がれてきた思想と技術があって生み出されたものだと思います。さきほど栗原さんもおっしゃってましたが、いくら理論が良くても、それが形にできる技術と素材がないとこんな音出せないですね。
栗原:長年やってきてるがゆえに、ホームの音とカーの音が一致できるんです。
音楽が正しく再生される
録音状態の仔細まで聴きとれる
土方:そろそろ、どんな楽曲がどう聴こえたという話もしましょうか。われわれ2人がジャッジで参加するヨーロピアンサウンドカーオーディオコンテスト(ユーロコン)の課題曲について印象を話しましょう。
栗原:キアン・ソルターニ/シューマン、チェロ協奏曲イ短調作品129から。ソルターニはフレッシュさが出ていました。
土方:それは音色の良さですね。
栗原:そうです。
土方:音色としてはどんな印象でしたか?
栗原:やや暖色の傾向でした。
土方:それで正しいですね。
栗原:それと、編集点が見えるほどの分解能の高さ……。
土方:それは誉め言葉なんですか!(笑)。
クラシックの協奏曲ですけれど、協奏曲というのはオーケストラの表現力とソリストの表現力が問われますけれど、今回聴いたクルマはどうでしたか?
栗原:表現力が、今まで聴いてきたカーオーディオの中ではかなり高いレベルで再現されているかなと思いました。ソルターニとその後ろにいる管弦楽団の対比がこの曲の聴きどころだと思うんですが、それを綺麗に再生している。コントラストがある程度出ている。そういう良さと、空間表現が良く出ています。あとは個人的な好みだとは思いますが、低音がもう少しだけあったら……。

東北パイオニア内にあるTADの試聴室でTS-Z1GRを聴く栗原氏。この部屋は見かけ上の壁や天井があるが、構造上はもっと広く高い空間が設けられており、音の響きなどを厳密に調整しているという。
立体的な奥行きを感じるステージング
綺麗で言うことなし
土方:低音はもっとあった方が良かった?
栗原:これはたぶんですが、ステレオサウンド誌の取材で豊かな低音を聴き慣れてしまったというのもあるかもしれないです。
土方:でも試聴室で聴くような低音域の量感などは、プロの録音スタジオと同じに感じたけど。
栗原:そこは好みかなと思いました。あるいはバランスの話かもしれませんね。
土方:いっぽうでステージングの出方……。
栗原:綺麗でした。
土方:ステージングはもう言うことないでしょう。
栗原:ありませんね。
土方:これ以上奥行きの表現などできないんじゃ……。
栗原:できないかもしれないですね。
土方:いままでこれほどの表現ができるクルマは、ほぼなかった。
栗原:あと、この楽曲って思ったほど録音良くないんじゃない? って……。
土方:録音は良くないです。もごもごしてて。
栗原:そういう判断がすぐにわかりましたね。自分が他に聴いたものとしては「椿姫」というのもありまして、カルロス・クライバー指揮の有名な楽曲があるんですけれど、それもステージングがとても美しくて……。
土方:栗原さんのリファレンス曲のひとつですね。
栗原:はい、よく聴いています。
土方:その曲の感想もぜひ。
栗原:奥行きや前後関係、ひとつひとつの楽器の位置まで見ようと思えば見られるんですが、自分がそこまで分解能を求める聴き方をしていない時は綺麗に見渡せているような音場と定位を感じました。前後関係のステージングそして声、バリトンであったりメゾソプラノであったりといった声の出方もひじょうに綺麗に、しかも定位感がスッと出てスッと消える、出して欲しいところで出してくれるし文句ないですよね。これをホームオーディオで出そうと思ってもなかなか出るものじゃないと思います。
土方:ホームでこの音を出そうと思ったら大変ですね。

取材時に聴いたデモカーのGR86。TS-Z1GRにサブウーファーを加えている。なお、東京国際フォーラムで開催されるOTOTEN2025に出展されるというから、ぜひ体験していただきたい。
楽器の質感をしっかりと表現
低音の過渡応答の良さにも注目
栗原:大変だと思います。土方さんが聴いた楽曲ではどうですか?
土方:今年のイーストジャパンサウンドコンテストで土方クラスのテーマ曲としたハンス・ジマーの「ザ・ワールド・オブ・ハンス・ジマー2」という楽曲、これはオーケストラなんですけど、パイレーツ・オブ・カリビアンをオーケストラ+合唱で構成する、とても分解能を要求する音源です。まず感じたのは質感表現の確かさでした。オーケストラですからアコースティック楽器です。音色に変な癖があると歪曲されて聴こえてしまう。でもしっかりとしたアコースティックな質感表現ができていました。この質感表現というのは、コンテストの世界ではとても重要なファクターで、本機のような製品は、コンテストにエントリーするオーナーが大いに注目すると思うのでお話しすると、先ほどお話しした“癖をつけてあえて狙ってくる”クルマもあるのですが、僕はそういうクルマよりも、まずしっかりとした質感を出しているクラシックの再生、例えば弦楽器であったり、大太鼓だったり。
それと、低音楽器の過渡応答がいいので、コントラバスとか大太鼓の「ドーン」と出した時の音の収縮がすごくいい、スピード感に富んだ音として聴けるんです、実際の演奏の通りに。そういったところも優れていました。
最終的には……これはインストール技術やセッティングも含めてのデモカーの評価ですが、あのクルマをセッティングした方のセンスがとても良いなと感じました。もちろん調整に使っているツールについても評価するところではあるのですが、やはりそこは使う人のセンスがなければ最終的に出る音が高評価にはなりえないので、ここは言い添えておきたいですね。空間表現の解釈が優れていないとあのようなクルマに仕上げることはできない、僕はそういう感想を持ちました。
単純に言うと歪みのない、高さ方向も出るステージングが眼前に表現されて、低音域の収縮の良いリアルな低音域がローレンジの伸び……組み合わされたサブウーファーが上手くなっていたというところもあるのでしょうが、本当に壮大で立体的で感性を刺激する音楽が聴けました。
もし、コンテストでこのクルマが来ると……この発言に苦情が来るとしても言っておきたいんですが……1位を取ってもおかしくないと思います。サウンドクォリティ的には。先ほど言った評価する人の感性によるところで結果は変わる可能性はありますけれど、そう言えるほど本機搭載のデモカーの完成度は高いです。
ASW:今回聴いたGR86ですが、OTOTEN2025に出展されるそうです。
OTOTEN2025で同じクルマが聴ける
多くの方に体験していただきたい
土方:そのようですね。この機会に多くの方にことサウンドを体験してもらいたいです。
栗原:東京国際フォーラムに足を運ぶ必要はありますけれど、こんなチャンスはなかなかないですから、私たちが聴いた感動をたくさんの方に体験して欲しいですね。今年のOTOTEN2025には他にも聴いておいて欲しいクルマが並ぶ予定なので、ぜひ聴き比べてもらいたいです。その中でもパイオニアのハチロクは、オーディオのカスタマイズする上でのGRAND RESOLUTIONという存在、標準原器だろうと思います。ここまでクルマのオーディオは行けちゃうんだと可能性を知っていただきたい。
土方:この音の出方というのは自動車メーカーの人にもぜひ聴いていただきたいですね。
栗原:そうですね。
土方:輸入車でオーディオの特別仕様車が出た時に、実はそのデモンストレーションで使用する楽曲の選定をさせてもらったことがあるんですが、その時にその輸入車メーカーのオーディオ担当という方と話をしていますが、その時に出ていた求める音というのは今回聴かせていただいたものに近い気がします。ですので、機会を作って自動車メーカーにプレゼンテーションしてもらいたいです。パイオニアが採用されるのが一番ですけれど、そうならないまでも市販車で聴けるカーオーディオのクォリティ向上につながる気がします。
栗原:今回の取材の中でうかがったお話の中で“アーティストの思いをありのままに伝えるために”というワードが出てきたんですが、実は別のメーカーでも同じことを聞いたことがあります。でもアーティストのありのままの思いを届けるためと言いながらパイオニアとそのメーカーでは手法が全く違うんです。でも、今回、東北パイオニアの試聴室とデモカーのハチロク。スピーカーこそ同じだけれどドライブするアンプは違う、けれど共通して聴こえてくる音があります。もう一方のメーカーでもそうでした。搭載している車両と開発メーカーの試聴室で共通する音が聴けます。
土方:興味深いですね。でもそのもう一つのメーカーは車両純正オーディオなんですよね?
栗原:もちろんユニットのお金のかけ方などは違うし、こちらはハイエンドカスタムで、もう一方は純正ですから同列の比較にはなりませんけれど、カーオーディオの今を知る上での双璧ではないかと思ってます。
土方:今回、一番価値があるなと感じたのは、CSTの原理的な良さが本当に出音で感じられたことです。僕は年間数百台のクルマを聴いていて、クルマでどれだけの音が出せるのかという目標のようなものをある程度把握しているつもりなんですが、そのうえで評価してもかなりいいんですよ。
栗原:それから、本機は2020年に発売されたTS-Z900PRSのCSTドライバーとそのまま交換できます。ねじ穴一緒で。
土方:それは使いやすい。インストールしなおすのに、ユニットの交換だけで済むというのはいい。
栗原:ユーザーとしてはこれは嬉しいですZ900PRSを使っていて、アップグレードするのに……価格はひとまず置いておいて、気軽にできますね。
土方:どこででも扱えるという製品ではないけれど、ぜひ多くのクルマでチャレンジして欲しい。
栗原:ところで、あまりのすばらしさに、話題がCSTドライバーにばかり行きがちなんですが、僕はウーファーの良さにも感動していまして。
土方:確かに。ウーファーもいいですね。
栗原:とにかくすごく澄んだ音がします。出したいときにバスっと出してきっちり止まるという。だいたい揺れ戻しのような音がするウーファーって少なくないじゃないですか。
土方:過渡応答の悪いユニットのお話ですね。
栗原:そうです、つまりそこの性能が高い。
土方:収縮がとてもリニアだから、余計な響きがないですね。
栗原:リニアリティに優れてひずみが少ない。このウーファーの良さは、CSTの陰に隠されがちかもですが、とてもいいです。
土方:そうですね。クルマで聴いてもいい低域を感じました。単純に低域の表現力に富んでいて、質的にも良かったし、立ち上がり立下りの部分でも優秀性を感じました。あと、ベースがセンターに定位していましたね。
栗原:そうでした。
土方:ああいうチューニングができているクルマはなかなか聴いたことがありません。だいたい、左右どちらかに引っ付いて聴こえるものが多い。あるいは音場全体に定位せずに聴こえていたりしますね。
栗原:ハチロクを聴いてみて興味を持ったのは、もっと車室空間の大きなクルマでCSTを聴いたら、どんな風に聴けるんだろうと思いました。
土方:セダンやミニバンなども聴いてみたいですね。あと、軽自動車もどうなるか気になりますね。
栗原:軽自動車! 私のS660で……。
土方:デモカーに仕立てましょうか(笑)
栗原:私個人のクルマはともかくですが(笑)
最近のクルマで言うとトヨタのクラウンスポーツあたりで仕立てられたら聴いてみたいです。あのクルマは車体のデキがかなりいいので、いいスピーカーでカスタマイズしたらと想像を掻き立てられます。
ウーファーの話に戻ると、パイオニアは昔からロングプレートショートボイスコイルという設計思想があると追うんです。そして、その良さが出ていますし、マイケル・ジャクソンのウィル・ビー・ゼアという楽曲では、ベースやキックドラムのようなものがバスッと止まらないと、あの曲は気持ちよくならない曲なのだけれど、気持ちよく聴けていました。それはさっき言った設計思想が音の良さとして出ていた部分だと思います。
土方:製品の格付けとしたら、カロッツェリアXシリーズとともに展開されていたRSナンバーのリプレイスという気もしますけれど、コンセプトとしては改めてパイオニアのハイエンドスピーカーとして訴求する、従来のモデルチェンジではないという意味合いがあるんですね。市場にはまだまだ、カロッツェリアやRSナンバーのスピーカーを、プライドを持って使っているユーザーはいます。そういう人にも聴いて欲しい。
栗原:GRAND RESOLUTION。この名前をなぜ付けたんだろうと最初思いましたけど、聴くとその通りでした。とにかく情報量が多い、でもひけらかさない。
土方:取材の中で蒸着ベリリウムとこれまでの振動板を見せてもらって、振動板を軽く叩いてみた時の音の違いを確認したんです。蒸着ベリリウムは本当に癖のない音なんです。ギラッとしたところがない印象で、以前の振動板もいいところがあったんですけれど。
あと、車載状態の体裁が良かった。

TS-Z1GRの170mmウーファーユニット。一見、従来のクロスカーボンウーファーのようにも見えるが、振動板はミッドレンジと同じ開織クロスカーボンを採用。コルゲーションエッジも形状のコンピューター解析を幾度も行い、歪みの低減が図られたという。また振動板中央のキャップ部形状を単一の曲線ではないカテナリー形状とするほか、コーン曲面も解析、検討して、クロスオーバーにおいてコントロールしやすいスムースな指向特性を獲得したのこと。

ユニットの背面を見ると、無骨な印象のバックプレートを確認できる。磁気回路の鉄材についても吟味されており、材質の選定や焼きなまし処理の検討を重ね、磁気歪の低減も行ったのだという。

ウーファーユニットを構成するパーツ。内磁型ユニットロングプレート/ショートボイスの採用、駆動力の平坦化・対称性向上を狙い、高いリニアリティと低ひずみ化を実現しているとのこと。これにより小音量から大音量まで音階が崩れることなく活き活きとした豊かな低音を再生するという。
高級機にふさわしいデザイン
いいものを着けているという佇まいがある
栗原:ピラーに埋め込まれた姿は良くできてましたね。
土方:そこはインストールのデザインの良さや、加工の上手さによるところが大きいでしょう(笑)。でもクルマについているところの面持ちがかっこよかったですね。
栗原:いいものを着けたという気持ちになれますね。
土方:そうそう。所有した満足感も充実している。視覚的にこれが感じられるってとても大切です。
栗原:現在、2ウェイスピーカーで、トゥイーターをピラーに、ウーファーをドアに配置しているという人なら、このモデルをクルマにインストールすることというのは抵抗なくできるでしょうから、ぜひトライしてもらいたいですね。
土方:あと、振動板保護のグリルのデザインもいいですね。高級感もある。
栗原:いいものを着けているという佇まいがあります。
土方:そういう上質感がないと、これだけの価格のものは受け入れてもらえないでしょう。それに、こういう意匠だから選ぶという人もいます。
あえてネガな部分を話すと……
栗原:ほめちぎってばかりだと信用されないので、少しだけ文句を言わせてもらうと、同軸らしい音の出方というのが、良くも悪くもあるなと……。
土方:そうですか、僕は気づかなかったけど。
栗原:ひとつは、ちょっとショートホーンっぽい音がする。高域に関して。こういう感じですね(口元を両手で作った筒を添えて話す)。声はいいんですけれど、弦などは気になる人は気になるかもしれない。
土方:そうですか。僕は気ならなかったけれど。
栗原:私は少しだけ気づきました。なので、あくまでもあえて文句を言うならといったレベルの話です。気にならない人も多いと思います。自宅でコンプレッションドライバー使っているから気にして聴いてしまうのかもしれないですね。
もうひとつ、車載状態では気になりませんでしたが、試聴室で聴いたときに気になったのが、同軸ユニットのフォーカスがしっかりしているが故の、ミッドレンジの上にトゥイーターユニットを配置したスピーカーとは異なる独特の高音の拡がり方というのを感じました。シャープな高域の音場に、キラッとするアクセントが加わった印象です。これはパイオニアのホーム用システムでもよく感じられる点音源主義……ヴァーチカルツインも含めたスピーカーシステム特有のものかなと感じました。
土方:一般のオーディオファンでそこまで気づく人というのはいないと思いますが、栗原さんにはそう聴けたんですね。
栗原:この音を聴く人のすべてが自分と同じ感想を持つとは思いませんけれど、ここは好き嫌いが出てくるかもしれない。
土方:でも、これほどシームレスに音が出るスピーカーってないでしょう。

CSTドライバー用パッシブクロスオーバーネットワーク。厳選した素子の採用するほか、フィルターの値は、出力音圧特製、エネルギー特性、インピーダンス特性を考慮、CSTの音圧特性、位相特性、指向特性が適切となるようなフィルターカットオフスロープになっているという。また、信号入力は基板上のプレートを外すことでバイアンプドライブに対応している。
この音を聴いて文句を言う人はいないかもしれない
栗原:シームレスな音は凄いです。そこは私も認めるところです。今日はつくづく、技術とはすごいものだなと感じながら聴いてました。しかもそれがクルマで聴けるというのに驚いてます。
土方:おそらく発売してそれほど時間をかけずに、コンテストにエントリーするクルマに載ってくると思いますが、これまであった超高級機と直接対抗するモデルだと思います。さっきも言ったあえて色付けした音のスピーカーを音楽性豊かと評価する方もいるので、その辺りが評価を分けるものか興味があります。
栗原:たぶん、このスピーカーだとアンプやプレーヤー、あるいはケーブルなどで音に色を付ける方向で遊ぶのかなと思いますね。
土方:音に少し好みのキャラ付けをするなら、DSPで自在な時代ですし、あえて癖のあるスピーカーを使うより、このスピーカーを使う方が音作りの自由度は高い。こんなアキュレートに音が出せるモデルはなかなかないでしょう……。
ASW:あの、無理やりネガティブな部分を絞り出さなくても結構なんですが……。
栗原:もし、もっと無理やり絞り出せと言われたら、値段でしょうか(笑)
土方:カーオーディオのスピーカーとしてはかなり高額ではあるけれど、でも実際の出音を聴くと70万円は安く感じませんか?
栗原:無理やり文句を言いましたけれど、でも実際にこのスピーカーを聴いて文句言う人って……。
土方・栗原:いないでしょう……。
土方:だってあのデモカー聴いたら。
栗原:まさにこれですよ(資料を指さしながら)“空間と時間の一致”、これがすべてですよ。
土方:さきほど、ちゃんとコンセプト通りの音が聴こえているといいましたけれど、それがいかに凄いことか。
栗原:そうです、そこです。
土方:ものすごいスピーカーが誕生しましたね。
栗原:欲しいものがまたひとつできてしまいました。
ASW:最後に、このGRAND RESOLUTIONはカロッツェリアブランドではなくパイオニアブランドでの発売です。同社の歴史に紐付いた技術の結晶であるCSTドライバーの特徴を活かした製品で、パイオニアでしかできない世界観として伝えたいという想いが込められているそうです。実際にその意気込みが音に出ていたのではないでしょうか。
SPECIFICATION
PIONEER
TS-Z1GR
¥700,000(セット/税別)
●型式:セパレート型2ユニット3ウェイスピーカー
●使用ユニット:ウーファー・170mmコーン型、CSTドライバー[ミッドレンジ・73mmコーン型、トゥイーター・26mmバランスドドーム型]
●定格入力:50W
●瞬間最大入力:180W
●出力音圧レベル:ウーファー・90dB、CSTドライバー・87dB
●再生周波数帯域:ウーファー・29Hz〜18.5kHz、CSTドライバー・154Hz〜90kHz
●インピーダンス:4Ω
●クロスオーバー周波数:ミッドレンジ/トゥイーター:3,170Hz、ミッドレンジLPF:-24dB/oct.、トゥイーターHPF:-18dB/oct.
TS-HX1GR
¥450,000(セット/税別)
●型式:同軸型2ウェイスピーカー
●使用ユニット:ミッドレンジ・73mmコーン型、トゥイーター・26mmバランスドドーム型
●定格入力:50W
●瞬間最大入力:180W
●出力音圧レベル:87dB
●再生周波数帯域:154Hz〜90kHz
●インピーダンス:4Ω
●クロスオーバー周波数:ミッドレンジ/トゥイーター:3,170Hz、ミッドレンジLPF:-24dB/oct.、トゥイーターHPF:-18dB/oct.
提供:パイオニア